トイレキッス
ふたりは弁当を片付けると、すぐに山を降りはじめた。山道をくだっていくにつれて、だんだんと風が強くなってきて、ふもとに着いた頃には吹雪になっていた。洋平とミツキはよりそいながら早足で歩いた。
ふたりは港のそばにある小さな喫茶店にはいった。
全身にはりついた雪をはらいながら、入口近くの席に座る。
窓の外を見て、ミツキはため息をついた。
「これじゃあもう外は歩けんね」
「しゃあないわな。帰りの船の時間までここにいよ」
「うん」
そのときメニューを持ってきた店のおばさんが、ふたりに声をかけた。
「今日はもう船は来んよ」
絶句するふたりの顔を見ながら、おばさんは眠たそうな声でつづけた。
「さっきに買い物に行ったら、市場のひとが言っとったんよ。吹雪で運行中止になったんやと」
注文決まったら呼んでや、と言い残して、おばさんはカウンターへもどっていった。
洋平はテーブルにつっぷした。
「マジけ」
ミツキもテーブルにつっぷした。
「どうしよう。帰れんなってしもた」
「とりあえず家に電話しとこか」
つっぷしたままの姿勢で洋平が言うと、ミツキが顔をあげて聞いた。
「なんて言えばいいん?」
「え?」
「親に、今日は帰れんなったって言ったあと、なんて言えばいいん?」
ミツキの考えを察して、洋平は口ごもった。
「だから、帰れんなったって言ったあと、その、今日は加火島に……泊まっていくって」
「いいんやね?」
「いいんやねって、そうするしかなかろうが」
「わかった。でも、どこに泊まるん?」
「そりゃあ、ホテルか旅館に、……あ、そうか、この島には宿泊施設なんてないか」