トイレキッス


ところが部屋の外からミツキの足音が聞こえてくると、洋平はあわてて布団の中にもぐり、寝たふりをしてしまった。あほだ。自分から望みを捨てる真似をしてどうする。


部屋にはいったミツキは電灯を消すと、おやすみ、とつぶやいてさっさと布団にはいってしまった。
わずか三秒で期待を裏切られた洋平は、現実の無情さに落胆し、ため息をついた。でも、ちょっとだけ安心もしていた。


そのとき、ミツキが小声で聞いてきた。


「どうする?」


「え?」少し口ごもる。「どうするって、何が?」


「その」声が熱っぽい。「やってみる?」


心臓がはねあがった。


「何を?」


「女の子に言わせんなやバカ。……わかってるくせに。麻見君、ずっとそのことばかり考えとったやろ。顔に出てたで」


「ほうか?」


「ほうよ。で、どうするん?」


「おれが決めるんか」


「あんた男やろ」


「せやけど、うーん、川本はどうなん?」


暗闇の中で、ミツキの気配が一瞬ふるえた。


「わたしは、ええよ」


かすれた声が、返ってくる。


「ほうか」


洋平は、おさえていたものを解放することにした。


ミツキの布団の中にいきおいよくつっこんでいった。そして驚いてあとずさろうとするミツキの肩をつかみ、思いきり抱きよせた。ミツキの髪が顎に触れる。服の布地越しに、肌の熱さが伝わってくる。洋平は、ミツキの服の裾から中に手を入れて、彼女の背中をじかになでた。手の平が汗で濡れる。あっと声をあげて、ミツキが小さくふるえる。


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