トイレキッス
「あれ?」
ふと洋平は手を止めた。
そして服の中から手を抜いて、その手をミツキの額に当ててみた。
「どしたん?」
「川本、熱あるわ」
「え、うそ」
「いや、間違いないわ。絶対熱がある。それに声もなんか変やで」
そんなことない、と言いかけて、ミツキは大きなくしゃみをした。
洋平は、もそもそと自分の布団にもどりながら言った。
「やっぱり風邪ひいてるわ。今日はもう寝とき。もし明日になっても熱さがらんかったら、もう一泊しよ」
ミツキは半身を起こして聞いた。
「ええの?」
「ん?」
「やめちゃってええの?」
「あほ。病人相手にそんなことできるわけないやろ」
「わたしはええんよ」
「おれはよくない。無理してそんなことされても全然うれしくない。だからもう寝とき」
ミツキは少しだまってから、
「わかった」
とつぶやいて布団にもぐった。
洋平は寝返りをうち、ミツキに背を向けてから、そっと熱い息を吐いた。
ああは言ったものの、ミツキのやわらかい肌の感触が手に残っており、頭の中はもんもんとしていた。それから一時間くらいの間、洋平はわきあがってくる劣情と必死で闘った。
夜が深まり、気分がだいぶ静まってきたとき、ミツキがいきなり背中に抱きついてきた。洋平の心臓は再びはねあがった。
「な、何ぞ?」
「くっつきながら寝たいんよ。ええやろ?」
「え、ええけど」
「おやすみ」
ミツキはすぐに寝息をたてはじめた。洋平は、またもやわきあがってきた劣情と、今度は三時間も闘わなければならなかった。