トイレキッス
部員達はみんな屋上へあがっていった。
部室には、洋平と藤沢と淵上の三人が残った。淵上はいつものように、ソファに寝転がって天井を見つめていた。
「淵上さん、三月の卒業生送迎会用の台本はもうできてる?」
藤沢が聞くと、淵上は無言でうなずいた。
「そっか」洋平を向く。「麻見君、今度の芝居で、また舞台設計やってみない?」
「え、またですか?」
藤沢にぼろくそ言われたことを思い出して、洋平は眉をひそめた。
「前は厳しいこと言ったけどね。でも、君の舞台設計には、欠点だらけでも、独特のセンスがあっておもしろいって思ったんよ。だから欠点を補えば、いいものができそうな気がするんやけど」
だまりこむ洋平にむかって藤沢はつづけた。
「最低限、これはやったらいかんってことは教えてあげるけん。麻見君には、裏方の仕事を楽しく覚えてもらいたいんよ」
「本当に、おれに描けますかね?」
「大丈夫。描ける」
「わかりました。やってみます」
そのあと藤沢から、舞台設計を描くときの注意点をいろいろと教わった。そしてその注意点を守れば、どれだけ自由な発想をしてもいいと言われた。洋平はその話を集中して聞いていた。だから、藤沢が必要以上に体を近付けていることには気付かなかった。