トイレキッス


翌日の放課後、淵上が書いてきた卒業生送迎会用の台本のコピーが部員全員にくばられた。


台本の題名は、『極道の就職』。


話の内容はこうだ。
主人公はヤクザの組長の息子。十八歳になって高校を卒業した彼は、普通の就職をしようとするが、父親がそれを許さない。父親は息子である彼に、組を継いでもらいたいと思っているのだ。それでも彼はヤクザの世界から逃れるために、必死でカタギの仕事につこうとする。そしてそれを、あの手この手を使って邪魔をしようとするヤクザ達。この芝居は、そんな彼等の様子をドタバタ風にして描いた喜劇である。


配役もすでに決められていた。


主人公である組長の息子は、三田村が演じることになった。


「お、ついにおれが主役か」


三田村は、いま初めて知ったふうに笑っていたが、冬休み前に、淵上の肩をもみながら、何度も自分を主役にしてくれとねだっていたことを洋平は知っている。


組長の役は、仁さんがやることになった。


「ヤクザの組長なんて、おれにできるんかな」


本人は心配そうにつぶやいていたが、去年のお好み焼き屋でのぶち切れぶりを見たところ、問題はないと思われる。


登場人物はヤクザばかりなので、出演する役者のほとんどは男子部員だった。今回はミツキの出番はなかった。ミツキは残念がったが、こればかりはしょうがない。


そして、練習が始まった。


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