トイレキッス


それから一週間がたったが、洋平はまったく図案を描けなかった。何度も机にむかって、鉛筆をにぎってはみるのだが、構想がまったくわいてこない。
藤沢は何も言わずにいてくれるが、そろそろ製作に取り掛からなくてはいけない頃だった。あせりが頭を支配して、ますます描けなくなってゆく。


さらに一週間たったが、それでも描けなかった。洋平は逃げだしたくなった。そもそも自分は芝居が好きなわけじゃないのに、なんでこんなことをしているのか。確かミツキに近付きたくて演劇部に入部したのだった。ならば、いまはミツキとつきあっているのだから、もう演劇部にいる必要はないのではないか。


「いっそ、芝居が中止になればええのに」


弱音を吐いた自分に腹がたって、机に額をぶつけた。







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