エンドロール
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玄関の扉の前でスーッと大きく息を吸い込み深く吐く。前もって渡されていた合い鍵を鞄から取り出しもう一度大きく息を吸い吐き出す。
この部屋に入ればこの部屋の家主の愛人だ。
勢いで契約したものの何をされるのか不安で鍵を開ける手が少し震える。
中に入ると広すぎる廊下が私を迎え入れ、そのまま真っ直ぐ廊下を歩き、途中数部屋分扉の前を過ぎ、最奥の部屋の前に到着し、扉を開ける。
扉の中に入ると、メゾネットになっていた。
テレビやソファ、キッチンなどがあるリビングは吹き抜けとなっており、扉から左手に階段がありそこから2階に上がれるようになっている。
中は思った以上に綺麗に整理整頓されていていた。
「おかえり。」
驚いてバッと振り返ると扉の前で壁に寄りかかり社長が立っていた。
「…………。」
驚きのあまりその場に立ち止まって黙り込んでしまった。
「どうした?」
そうか。今日からここが私が帰って来る家なのか。
頭ではわかっていたつもりだったけれど、いざここに足を踏み入れたら急に実感が湧いてきた。
「……ただいま。」
おかえりと言われたのはいつぶりだろうか。
お父さんが死んだあの日からそんな家で誰かが出迎えてくれるなんてことなかった。
愛人になれとわけのわからないことを言ってきた相手だということは置いといて、久しぶりにおかえりと言われたことと初めてこの家に足を踏み入れたというのもありなんだかむず痒いような不思議な気持ちだ。