付喪狩り
確かに、行人は田倉にひどくいじめられていた。疑われるのは、当然かもしれない。
それでも、腹がたってきた。

ふざけんなよ。ぼくが人生を棒にふる覚悟をしてまで、あんなやつを襲うわけがないだろう。そりゃあ、殺したいと思ったことは何度もあったさ。でも、ぼくはその殺意を、黒色ノートでちゃんと解消しているんだ。感情に流されて、犯罪に走るようなバカといっしょにするな。

行人は、こちらを見た数人の生徒の名前を覚えた。そしてあとで、ひとりひとり黒色ノートの餌食にしてやろうと決めた。



休み時間、早速それを実行しようとして、学生鞄から黒色ノートを取り出した。
「あれ?」
ノートをつかんだとき、指先に違和感を感じた。
何かがノートの中にはさまっている。そんな感触だった。
机の上に置いて広げようとすると、まるでノリでくっつけたかのような抵抗があって、ページが開かなかった。少し力を入れて、破れないように気をつけながら、無理やり広げてみた。

ノートはぺりぺりと小さな音をたてて開いた。

「…………?」

そのページには、赤茶色の乾いた汚れがこびりついていた。

鉄棒のような臭いが、鼻をかすめた。

中央に、何か薄茶色の小さくて丸っこいものがあった。はさまっていたのは、それのようだ。

行人は顔を近づけてそれを見た。

そして、それが何かを認識した途端、心臓がばくんとはねた。



それはちぎれた人間の耳だった。



青いピアスのついた、日焼けした耳が、ノートにくっついていた。



行人は思い切りノートを閉じた。

耳がページにはさまれ、ひしゃげる感触が手のひらに伝わる。

悲鳴をあげそうになったが、まわりにクラスメイト達がいることを思い出して、必死で声をこらえた。息がつまった。咳き込みそうになるが、口を手でおさえ、息を止めて、それをも我慢した。目尻に涙が、じんわりとにじんだ。
いま、音をたててはならない。絶対に、注目を集めてはならない。
背中に汗がふきだしてきた。下着のシャツが湿って、気持ち悪い。

誰にも見られなかったか?

さっきの耳を、誰も見てないか?

行人はまわりを何度も見渡した。誰一人として、こちらを見ていないことを確認して、ゆっくりとため息をつく。
とりあえず、ノートをしまうことにした。
なるべく自然な風をよそおって、学生鞄に入れようとしたが、手が震えてしまい、どうしても不自然な動きになる。









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