付喪狩り
学生鞄のボタンをしっかりと閉め、机に手を置いて、行人は考えた。


何だ、あの耳は?


なんであんなものが、ぼくのノートにはさまっているんだ?


さっき見たものを、頭の中で反芻する。


汚れたノートのページ。


赤茶色の汚れは、たぶん血だ。


そして、耳。


日焼けした、茶色の耳。


青いピアスのついた、何かに切り落とされたかのような、人間の耳。


「ピアス?」
ひっかかりを感じて、つぶやいた。
頭に手をあてて、考える。

そして、思い出した。

あの耳の正体がわかったのだ。

行人はまた悲鳴をあげそうになった。我慢しようとしたが、こらえきれずに、小さくぎっ、と
声をあげてしまった。



あれは田倉の耳だ。




間違いない。毎日、黒色ノートに田倉をいたぶる文章を書くとき、何度もあの耳を切るところを、空想していたのだ。あの青いピアスの形には、見覚えがある。


では、なぜ田倉の耳がノートにはさまっていたのか。


嫌な想像が浮かんだ。






付喪になった黒色ノート。


朝、開いていた部屋の窓。


入院した田倉。


そして、耳。





どうしても、異常な結論が頭に浮かぶ。














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