「視えるんです」




「あ」

「え?」




突然、先生が空を見上げた。

……けど、別に何も変わった様子はなく、風がそよそよと吹くだけだ。




「……何か、視えたんですか?」




変わった様子がないのに声を上げた。その理由は、何かが視えたから。

そうなんじゃないかと思い、先生を見る。




「視えたっつーか、声だ」

「声……?」


「饅頭は嫌いだとさ」

「そ、それって雨宮さんの声ですか!?」

「おう、姿はねぇけどな。つーことで、饅頭は俺が頂戴する」




供えかけた饅頭を、ヒョイと取って口に運ぶ先生。

……え、もしかして。

饅頭が食べたくて嘘を言った……!?




「せ、先生!! 声が聞こえたなんて嘘でしょ!!」

「ふふふっ、バレたか」

「お供え物が無くなっちゃったじゃないですかー!!」

「お供え物を放置してったらどうせカラスの餌だ。
供え終わったら食べて帰る、これ基本だろ」

「まだ供えてもいません!!」




……ほんっとにもう、こんな時まで甘い物を食べたがるなんて。

しかもカラスの餌とか、どんだけ現実的なんですか……。


はぁ……仕方ない、ペットボトルのお茶だけでもお供えしよう。

と思ったら、これもまた先生によって奪われた。


……せめて、お供えしてから飲んでくださいよ……。




「ほんっと、先生って甘いの好きですよね。 あと緑茶」

「まぁな。 これが無くちゃ生きていけん」

「甘いものの食べ過ぎで死にそうですけどね」

「ま、そん時はそん時だ」




ニコッと笑った先生は、通路の方を見てふっと息を吐く。




「あとはお前らだけでやっとけ。 俺は少し、仕事だ」

「え? あ……GS、の……?」

「そ。迷える魂を救う、それが俺。 じゃあな」




そう言って、先生は来た道を引き返していった。


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