「視えるんです」


……とまぁ、そんなこんなで。

鏡の女は倒せない。という結論だ。
強制的にやれないこともないけれど、報酬が入らないからやらない。と言っていたのは、聞かなかったことにしとこう……。

でも、『強制的に』って、どんな手を使うつもりなんだろう?
言葉からして、穏やかではない感じだけど……。




「さてと。 そろそろ終いだな」

「ですね、あと20秒でチャイムが鳴ります」




と話す先生と本田先輩。
本田先輩の時計は正確だから、そろそろ授業終了のチャイムが鳴るはずだ。


キーンコーンカーンコーン


……やっぱり凄い。
私も先輩に習って、時計の針を合わせておこうかな。




「ほい、お前の荷物」

「え? あれ、なんで先生が私の荷物を?」

「教室に取りに行かなくてもいいようにしてやったんだよ。 優しいだろ俺。 いやー、照れるねー」

「……ありがとうございます」




優しいとかその辺はサラッとスルーして、鞄を受け取る。

先生が色々と手を回してくれたおかげで、私は今日このまま帰れるということだ。

……うん。 階段を通らなくて済むから、それはありがたい。




「じゃあ本田、あとはよろしくな」

「あ、はい」




……って、何が『よろしく』なんだろう。

と疑問に思っていたら、先輩が私を見て微笑んだ。




「家まで送る。 その方が安心だろ?」

「あっ、はいっ……!!」




そっか。
それで『よろしく』だったんだ。

……先輩と二人きり、かぁ。

色々怖い目には遭ったけど、それはそれで嬉しいかも。




「『本田先輩に襲われたらどうしよう、キャー』とか思ってるだろ」

「……っ先生!! 変なこと言わないでくださいっ!!」

「変なことを考えてるお前が悪い」

「考えてませんから!!」

「はははっ、じゃあなー頑張れよー」




と、半沢先生はニヤケ顔で出て行った。

……性悪め。 何を頑張れってんだ。

あぁもう、最悪だ。 先輩と二人きりなのに、先生の言葉を意識してしまって……なんだか妙な空気……。




「……とりあえず、行こうか」

「は、はいっ……」




私も先輩も、半沢先生のせいでなんだかぎこちない。

口数が少ないまま、私たちは保健室を出て昇降口へと向かった。


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