「視えるんです」




『雨宮』




先輩が、彼の名を呼ぶ。




『あまり、俺の女をいじめないでくれないか』




その言葉が聞こえた瞬間、雨宮さんがふっと私から離れた。

いや、正確には、姿が消えた。だ。

突然ふっと、一瞬でどこかへと消えてしまった。




『大丈夫? 南沢さん』

「え……雨宮さんが、消えた……」

『ちょっと遠くに飛ばした。 そのうちまた、現れると思うけど』

「と、飛ばしたって……そんなことも出来るんですかっ……!?」

『雨宮が相手だからね。 彼も本気で乗っ取ろうとはしてなかったし』




……なんか、よくわからないけど……。
でも、とりあえずは助かった、のかな……。




『じゃあ、また何かあったら連絡して』

「ちょっ……先輩っ!! 私、視えるようになっちゃったんですよ!? これどうすればいいんですかっ……!!」

『それは、覚悟を決めるしかないかな』

「そ、そんなぁっ……!!」

『慣れれば大丈夫だよ。じゃあ、また明日』

「え、ちょっと先輩っ……!!」




……うわぁ!! 切れた!!

慣れれば大丈夫。って、そう簡単に慣れるなら、こんなに怖がりじゃないですってばぁっ……!!




「あはは、冷たい彼氏だなぁ」

「うわっ!! もう出たー!!」

「そりゃあ俺の方が本田より強いからな」




ニヤリ、雨宮さんがベッドの上で笑う。

……本田先輩、私はもう、ダメっぽそうです……。


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