不思議な“キツネ”ちゃん


キツネが出ていったあとも
屋上は静かなままだった。

キツネの残した空気と
朱里ちゃんの秘密を知った驚き。

どちらも入り混ざってしまってる。


「ねぇ啄」

額にシワを寄せながら考え事をしてる、
俺らのマトメ役に声をかける。

これからどうするのか、と。

キツネのこともだけど、
今は彼女のことが最重要だ。

朱里ちゃんの秘密を彼女の知らないところで
勝手に知ってしまった。


「結婚、してるんだって」

まだ高校生が、だ。

てことは旦那がいる。

俺らみたいに中途半端ではないんだ。

きっと高校卒業後は旦那と暮らすのだろう。

高校だけは、と思って入学したのかもしれない。

そんな彼女を危ない目に合わせてはいけない。

俺らと一緒にいると俺らの弱みとして狙われる可能性が高くなる。


「離れた方がいいのかな」

せっかく、仲良くなったのに。

初めて女の子に心を許せそうだったのに。

仲間になってほしいと、思い始めたのに。


そう思ってきたから。

だから悲しくて、前が涙で霞んでいく。



「いや、このままでいいだろ」


まあ、啄の一言で涙は引っ込んだけど。


「よくないだろ。どう考えても」

優がすぐに反論する。

「俺も反対。めんどくなるだけだろ」

将太郎も反対する。

深夜はなにか考えていてなにも言わない。


正直、啄の一言は俺にとっては嬉しい。

けど、彼女のことを考えるとあまり良くない。



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