実は彼、ユーレイでして。

その手助けは、俺がする

午前７時25分。





こんがり焼けたバタートーストをかじりながら、読みかけの雑誌に目を通す。





「あぁ、これも可愛い。でもちょっと色が派手かな」






４人掛けのダイニングテーブルの上。淹れたてのコーヒーが、いい匂いを部屋に充満させている。





テーブルの向こうのテレビから聴こえるイケメン俳優と一般女性の熱愛報道をＢＧＭに、朝の短い自由時間をゆったり気ままに過ごす。





「うぇっ！渡部哲次郎ってこんなにおっさんになったの！？マジかよ！」






そんなあたしの至福の時間が、突然の大声で清々しいくらいきれいさっぱり吹き飛ばされるのにも、ようやく慣れてきた今日この頃。






「朝からよくそんな声でるね、アンタ」

「だってさ、だってさ！渡部哲次郎だぞ！『インデシベル』主演のときは17、8だったのに！」





神谷雫。あたしが朝ごはんを食べ始めるあたりで何処からともなく姿を現す、学ラン姿の少年。





彼の最近の趣味は、ソファーに座ってテレビのエンタメ情報に驚きの声をあげることらしい。





「なんか、うるさそうなタイトルの映画だね」

「おいっ！俺の好きな映画ベスト３をバカにするなよ！」





いつの間に持っていったのか、机の上に置いておいたトーストをくわえた雫が文句を叫ぶ。






「はいはい。ソファーにパンくずこぼさないでよ？」

「あ、唯ぃ、俺ブラック無理だわ、牛乳入れてくれない？」





「子供だなー。砂糖は？」

「多めで」





他愛ない会話が交わされる、ただの日常。





ただし、そんな日常の中で一際異彩を放つ、非日常すぎる謎設定。





「うまい！やっぱ朝はコーヒー牛乳だな。あァ～生き返る」

「…それ結構ブラックめのジョークだよね」




「飲むのはカフェオレ、ジョークはブラックってか」

「お願いだから朝っぱらから疲れさせないで」





目の前で「生き返る～」とか言ってるこの少年が、文字通りちゃんと死んでいるという事実。





そんな事実をただただ受け入れるしかないあたしは、文字通りこう思うのだ。






冗談じゃない、と。