実は彼、ユーレイでして。
昼休み。





あたしは、立ち入り禁止の柵をこっそり乗り越えて、屋上に来ていた。





「おばあちゃんが、優秀な守護霊…ね」





階下に続く鉄の扉に寄りかかって、ため息をつく。





「どしたん、メシは?」





雫があたしの真上から声をかける。





「ちょっと気分じゃない」





足の力がふっと抜けて、その場にぺたんと座り込むあたし。






「…唯?」






「どおりで強運なはずだわ、あたし」










考えてみればみるほど、どう考えても「あの日」あたしが助かったのは、普通じゃなかった。






7年前、あたしは旅行に向かう途中の高速道路で、大事故に巻き込まれた。





死者5人、重軽傷者が11人。お父さんとお母さんは、その事故で死んだ。あっけなく。





あたしは助かった。ぐちゃぐちゃに潰れた車体の間の小さな空間に、器用に身体が収まっていたのだという。






奇跡だ、と、周りの大人たちは持て囃した。





でも、当のあたしは助かったコトよりも、両親が死んだコトの方がショックで。











なにが奇跡だ。





バカヤロー。





なんで助かったんだ、あたしは。





死ねば良かったのに。





あたしも、お母さんたちと一緒に、死にたかった。






何度も何度も、そう思った。









「あぁ…そうだよ。アレ、おばあちゃんだったんだ」





膝を抱えて、顔を膝小僧にゴツンとぶつける。思い出したくもない過去を無理矢理掘り返す。











“唯。いけんよ、ちゃんとせないけん”





真っ暗な闇の中、声が聴こえていた。




身体中が痛くて、熱くて、苦しくて。




このまま眠ってしまえば楽だろうなァ。と、思うたびに、目を閉じようとするたびに、声が聴こえていた。





“唯。いけんよ、ちゃんとせないけん”





確かに、聴こえていた。






あれは、おばあちゃんがあたしに話しかけてくれていたのだ。






結果、あたしは意識を失わずに、潰れた自動車の中でちゃんと呼吸をして、助かった。





あたしはおばあちゃんに、助けてもらっていたのだ。

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