実は彼、ユーレイでして。
「…雫?」





呼んでみたけど、返事がない。でも、気配はある。





「上、かな?」






上階から、なんとなく雫の存在感を感じた。ラジオの電波を途切れ途切れに受信するみたいな、微妙な感覚。





「この上ってコトは、屋上かな」





3階に上がってきたあたしはそのまま上に続く階段を小走りで上がり、立ち入り禁止の柵を踏み越える。






「雫、いるの?」





鉄の分厚い扉を両手で押し開けると、屋上の広いコンクリートの地面の上で、雫がうつ伏せになって倒れていた。





…一気に、一気に血の気が引いた。






「雫っ!?」






大声とともに、あたしは雫に駆け寄った。






「しずっ…」





抱き起こそうとした手が、雫の身体をスカッと通り抜けた。





「……あっ」






瞬間的に、理解が及んだ。






エネルギー切れだ。






仕事中の雫。






あたしの呼び掛けで、おそらくかなりの距離を飛んで戻ってきた雫。






実体化して、あたしとユリを助けた雫。





実体化したまま、ユリを襲ったユーレイを捕まえて、浄化した雫。






「雫!雫!?」





火を見るより明らかだ。あたしを助けに来たせいで、雫の存在が消えかかっているんだ。





「う…ん」





と、雫が苦しそうに一度うなって、倒れたままこっちに顔を向けた。





「あ…あら、唯?」

「雫!気付いたの!?」





「いやぁ…ハハハ。お恥ずかしい所を」

「冗談言ってる場合!?大丈夫!?」

「だ、大丈夫…大丈夫」





どう見たって大丈夫じゃなかった。





雫の身体はいつも半透明なのだけど、今の雫はそれよりももっともっと色素が薄くて、コンクリートの灰色に今にも同化してしまいそうで。その存在は初めて見たあたしですら異常だと思えるほど希薄になっていた。
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