実は彼、ユーレイでして。
平日。

学校帰りの夕暮れ時。



国道沿いの狭い歩道。
歩を進めるのはあたし、高良唯(タカラ・ユイ)。




桜塚高校2年C組、出席番号40番。学業成績「並」、容姿「中の上」(自分で言うな)、友達少なめ。




普通と言って何ら差し支えない、ごくごく一般的な、平凡な女子高生だ。




今は帰路の途中。「帰宅なう」という感じなんだけど。




歩きながらで恐縮だけど、色々と説明しなければならないことが、ある。山程ある。








あたしには、ユーレイが見える。







ユーレイといえば、どこぞの映画かなにかに現れる、井戸から出てきた髪の毛のながァいお姉さんだとか、机の下や押入れの中からこっそりとこちらを覗く、異常に色白の不健康そうな男の子のようなモノを想像するだろうか。






「だからァ、『モノ』っていうのはヤメロよ、唯」






ところがどっこい。
あたしの目の前のこの「ユーレイ」は、そんなホラー・オカルトとは全く無縁で。






「あんた、ホントにユーレイなワケ?」





そう聞きたくなるほど、呆れるほどただの人間そのものなのだ。

見た目は。






「しつこいなァ、そうだって言ってるじゃん。証拠だって見せたろ?」

「なんか、やっぱ信じられない。ユーレイが存在するなんて」






あたしの隣を歩く、男の子。
どこにでもいそうな、紺の学ランを着た黒髪の男の子。




あたしとそんなに変わらない身長で、男の子にしてはわりかし小柄。幼い顔立ち。年齢でいえば中学生くらいに見える。




神谷雫(カミヤ・シズク)と名乗ったこの少年は、三日前、唐突にあたしの目の前に現れた。






“驚かずに聞いてくれ、俺はユーレイだ”





自分で自分を「ユーレイ」と紹介した、実に珍しいユーレイが、雫だ。





「目に見えないモノは信じないんだろ?この俺が目に見えないか?」

「……」






この小生意気なユーレイは、この3日間、あたしの側を全く離れない。





朝起きて、身支度を整えると、いつの間にやら隣にいる。





「黙ったってコトは、納得したってコトだ。そうだろ?そうだよなぁ、唯にしか見えない、宙に浮ける、半透明の人間なんて、いるワケないもんな」

「……」





俗にいう、“取り憑かれた”ってヤツだ。





「まァ、実際信じられないのも無理ないさ。普通はユーレイなんて目に見えないんだから。俺だって唯が『見える人』で、かなり驚いた」

「……」





「あのー…そろそろ何か言ってくれないと寂しいんだけど」

「幻聴が聞こえるなァ、あたしのお金でご飯食べてるクセに生意気言ってくるクソガキの声が」





「あっ!ずるい!困るとすぐコレだ、この人でなし!」

「帰りにあんパン買って帰ろうと思ったけど、なんかお腹すいてないしやめようかな」





「すいません唯サマ俺もうユーレイとかいてもいなくてもどっちでもいい感じデス!」

「よろしい」






まァ、ただ、危害を加える気はないらしい。






よく食べるペットを拾った、それだけのコト。





そんな心持ち。いまのところは。
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