実は彼、ユーレイでして。
「唯は、たまたま俺が見えて、俺としゃべれた。ユーレイの俺をちゃんと見てくれて、ちゃんとしゃべってくれた」

「…雫」





雫の優しい声は、いつだってあたしの身体のなかに、なんの抵抗もなく、心地よく、すうって染み込んでいく。





─あたしも、力一杯雫を抱き締めた。





「おいしいご飯も、いっぱい作ってくれた。しょうもない冗談に、いっぱい笑ってくれた。それから、これが一番重要」





そういった雫は一回顔を離して、あたしのおでこに自分のおでこをコツリと当てた。





─雫の顔が、すぐ近く。





「唯の『ありがとう』が、一番嬉しかった。それだけで、俺、もう十分なの」






踊り場で、雫が笑ったことを思い出した。助けられて、お礼を言ったあたしに見せた、あの笑顔。






「守護霊が憑き主に感謝されるコトなんて、絶対ないんだ。だから、ホントに、ホントに嬉しかった」

「…ありがとう、雫」






「ハハ。やめてよ」

「ううん、助けてくれて、ありがとう」





何度言ったって、言い足りない。





それくらいのモノを、あたしは貰った。






「雫、ありがとう」

「…うん」






また、雫が抱き締める。





頬と頬が優しく触れ合う。







「ありがと…ありがとう」

「…うん」






「ホントに、ありがとう」

「…おう」







「雫」

「…うん?」






「……ふふっ、ありがとう」

「なんかありがたみ無くなってきたな」





「あははっ」

「ハハハ」
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