実は彼、ユーレイでして。
キーンコーン。





終業のチャイムが、晴れ渡る屋上に鳴り響いた。





「さぁ。そいじゃ、行きますかね、そろそろ」





少し大きな声を出して、雫が両腕の力を緩めた。





それを合図に、あたしも雫の背中に回していた腕と、密着していた身体を離して、少し距離をあけた。





「あーもう、そんな顔しないでよ、唯!」

「ご、ごめん。そーだよね」





ここ最近で、一番泣いた。涙なんてもう、死ぬまで一滴も出ないだろうと思ってたのに。バカだったなぁって思うくらい、いっぱい泣いた。





つまり、それだけ酷い顔をしてるってコト。またちょっと恥ずかしくなって、顔を伏せる。






「まー、死んだらまた会えるし」

「それ、あたしだけおばあちゃんになってるじゃん。なんかやだなぁ」






「じゃあまたばあちゃんがぎっくり腰になるよう祈れ。俺そしたらバイト入れるわ」

「その時はまた見えるの?雫のコト」






「多分ね」

「なんか不謹慎だなー、護ってくれるおばあちゃんに『ぎっくり腰になれぇ!』って」






「どんだけ祈っても多分あと20年くらいは元気だぜ、ばあちゃん」

「あー…結構複雑。そしたらあたし37歳?結婚してんのかな」






無駄話をしながらも、徐々に雫の気配が薄れていくのがはっきり分かる。






…ホントに終わりなんだなって、確信する。






「唯はいいお嫁さんになるよ。俺が保証する」

「前も言ってたね、それ」






「スルーされたけどね」

「アレ、そうだっけ?」






でも、驚くほど心の中は穏やかで。






それもこれも、雫があたしを助けてくれたおかげで。






そして、あたしが雫にちゃんと何かをあげられたんだって、分かったからなのだろうか。






それとも、やっぱりこうやって別れることが、普通なんだって、ようやく頭も心も納得したせいなのかな。





「あ、そういえば、事務連絡です」

「なぁに」





「霊感、そのまま持っとく?」

「あー。そうだね、怖いけど持っとく」





「オッケー。記憶は?」

「え、消せるの?」





「消せるよ」

「消すワケないでしょ」

「ですよねー」






雫はあたしの告白に、返事をしてくれなかった。まァそもそも人間とユーレイの恋愛なんて、結局人間の方が死ぬか、ユーレイの方が消えちゃうかで、成就する話なんて聞いたことがない。





あたしの不思議な恋もそのご多分に漏れず、叶わずじまいだったけど、それでいいのだ。それが普通なんだからって、そう思える。
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