実は彼、ユーレイでして。
「じゃあ、これでホントにお別れな」
「うん。ちゃんと充電しなよ、帰ったら」
「あ、いいね、その感じ」
「なにが」
「なんか、またすぐ会えるみたいじゃん?」
「あー、そだね、たしかに」
少しの間だけど、雫が見せてくれたユーレイ世界は、雫の言うように、ホラーでもオカルトでもなくって。
でも、SFって言うほど空想的でも、メルヘンって言うほど幼稚でもなかった。
じゃあ、ファンタジー?って聞かれると、うーん、そうかも、って感じ。どっちにしろ、いまいちしっくりこない表現で。
雫の存在や、雫の世界の存在は、やっぱりあるって思えるから。それをあたしも信じることができたから。
やっぱり、雫にとってもあたしにとっても、ノンフィクションがぴったりの表現だ。
「なんか、死ぬの怖くなくなったなー」
「だからって早くこっち来んなよ」
「分かってるよ。頑張って生きなきゃ雫やおばあちゃんに助けてもらった意味ないし」
「それなら良し。死ぬのが怖くなけりゃ、大抵のコトは乗り越えられる」
子供の頃に憧れた不思議な世界とはちょっと違うけど、雫が見せてくれた世界は、これからもちゃんと存在する。
つまるところ、いつかは死ぬことになったって、そうしたらお母さんや、お父さんにも会えるってことだ。
「だったら、せっかくだから今は一生懸命生きてみる。どうせ死んだら会えるんだから」
「前向きで結構!じゃあ目ぇ閉じて」
言われるままに、目を閉じる。
「これでいい?」
「うん。そのまま5つ数えて。それでおしまい」
「分かった。ホントに、ありがとね、雫」
「十分だって言ってるじゃん、ニヤけるからやめて」
「あはは。じゃあ、またね」
「うん、またね、唯」
いつでも会える友達とそうするように、「またね」と言った。
また明日ね、くらいの「またね」。
それでいいのだ。
あたしもそれで十分だから。
そう思いながら、数を数える。ゆっくりと、思い出を噛み締めるように。
いち、
にい、
さん、
しぃ、
ご…
「唯、ありがとう」
「えっ?」
聞き返そうとした瞬間。
…トンっ。
柔らかい何かが、口に当たり、すぐ、離れる。
「俺も─唯が好き」
同時に、強く暖かい風がびゅうっと吹く。
意思を持ったかのような風が、あたしの身体をぐるりと一周して、顔の横を吹き抜けて行くのを感じた。
─目を開けると、そこに雫の姿はなく。
燃えるような夕陽が、遥か遠くのビルの間に沈むのが見えた。
涙が流れる代わりに、ふっと笑いが込み上げて。
「雫のヤツ!」
オレンジの空を見上げて、大きく、大きく手を振った。
「またね、雫!」
「うん。ちゃんと充電しなよ、帰ったら」
「あ、いいね、その感じ」
「なにが」
「なんか、またすぐ会えるみたいじゃん?」
「あー、そだね、たしかに」
少しの間だけど、雫が見せてくれたユーレイ世界は、雫の言うように、ホラーでもオカルトでもなくって。
でも、SFって言うほど空想的でも、メルヘンって言うほど幼稚でもなかった。
じゃあ、ファンタジー?って聞かれると、うーん、そうかも、って感じ。どっちにしろ、いまいちしっくりこない表現で。
雫の存在や、雫の世界の存在は、やっぱりあるって思えるから。それをあたしも信じることができたから。
やっぱり、雫にとってもあたしにとっても、ノンフィクションがぴったりの表現だ。
「なんか、死ぬの怖くなくなったなー」
「だからって早くこっち来んなよ」
「分かってるよ。頑張って生きなきゃ雫やおばあちゃんに助けてもらった意味ないし」
「それなら良し。死ぬのが怖くなけりゃ、大抵のコトは乗り越えられる」
子供の頃に憧れた不思議な世界とはちょっと違うけど、雫が見せてくれた世界は、これからもちゃんと存在する。
つまるところ、いつかは死ぬことになったって、そうしたらお母さんや、お父さんにも会えるってことだ。
「だったら、せっかくだから今は一生懸命生きてみる。どうせ死んだら会えるんだから」
「前向きで結構!じゃあ目ぇ閉じて」
言われるままに、目を閉じる。
「これでいい?」
「うん。そのまま5つ数えて。それでおしまい」
「分かった。ホントに、ありがとね、雫」
「十分だって言ってるじゃん、ニヤけるからやめて」
「あはは。じゃあ、またね」
「うん、またね、唯」
いつでも会える友達とそうするように、「またね」と言った。
また明日ね、くらいの「またね」。
それでいいのだ。
あたしもそれで十分だから。
そう思いながら、数を数える。ゆっくりと、思い出を噛み締めるように。
いち、
にい、
さん、
しぃ、
ご…
「唯、ありがとう」
「えっ?」
聞き返そうとした瞬間。
…トンっ。
柔らかい何かが、口に当たり、すぐ、離れる。
「俺も─唯が好き」
同時に、強く暖かい風がびゅうっと吹く。
意思を持ったかのような風が、あたしの身体をぐるりと一周して、顔の横を吹き抜けて行くのを感じた。
─目を開けると、そこに雫の姿はなく。
燃えるような夕陽が、遥か遠くのビルの間に沈むのが見えた。
涙が流れる代わりに、ふっと笑いが込み上げて。
「雫のヤツ!」
オレンジの空を見上げて、大きく、大きく手を振った。
「またね、雫!」