実は彼、ユーレイでして。
「あんパン2つ下さい」




帰り道の途中にある、パン屋さん。




手早くあんパンを買って、パン屋さんの中にある2人がけのテーブルに座る。





「はい」

「あざーす!」




あんパンをひとつ雫に手渡すと、雫は目をキラキラさせながら、小さな口を目一杯ひろげて、それにかぶりついた。




それを頬杖ついて眺めるあたし。





周りからは、女子高生がひとりでパンを食べてるようにしか見えない。





「そのあんパンってさ」

「超絶うまいよ、感謝してるよ高良大明神」





「そうじゃなくて。周りからは宙に浮いてるように見えるんじゃないの?」

「あー、そゆこと?見えないらしいよ」





まだあたしは、「ユーレイ」というものの生態をよく知らない。





ユーレイと言えども、ちゃんとお腹は減るらしい。





「『らしい』ってなんなの」

「んー、なんか、俺が手に取ったら、見えなくなる、ってコト。理屈も習ったんだけど、忘れた」





「習った?」

「『現在世界における物件干渉論』っていう講義」





「…ごめん、一から説明してくれる?」

「何を」





「んー、色々」

「あんパン食べてからね」







あたしの目の前に現れたユーレイ、





神谷雫は、ニコリと笑って、残りのあんパンをひょいと頭上に放って、パクリと口でキャッチして見せた。





この後雫の語った「ユーレイの世界」の話は、






あまりに規模が壮大で。







あんパンを食べた後に聞くには、少々胃もたれが過ぎた。
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