実は彼、ユーレイでして。
「そんで、あなたの住む場所はどこどこのなになにマンションの何号室ですから、この紹介状を持って、部屋のヒトに見せて下さい、ハイお疲れ様でしたーってなる」
「マジで市役所の対応っぽいね、それ」
「だろ?俺もめっちゃびっくりしたわ」
「部屋は一人暮らしなの?」
「俺は同い年くらいの男と二人暮らしだったわ。なんか、生い立ちとか、死んだ経緯とかでそーゆーのも決めるらしい」
「ふぅん…」
「例えば、まだ小さいうちに死んじゃった子は、大人のいる大きな家族の中に入れてあげる、とか。既婚者は、なるべく夫婦で住めるように配慮もされてるって聞いたこともあるなァ」
「外国の人もいるんだよね」
「もちろん。居住区は住んでた国ごとでおおよそ分けられてるけど、生きてたころよりはずっと身近だな」
「食べ物とかは?」
「普通に市場とかがあるよ。スーパーもあるし、コンビニもある。通貨は「休憩所」共通。毎月一定額が支給されて、最低限の生活は保障されるね。贅沢したい人は、生前の経験を生かして仕事についたり、バイトしたりする」
「ふぅん…」
笑顔でスラスラ答える雫を見ながら、あたしは雫の生い立ちが気になっていた。
雫の話からすれば、雫は目の前の、あたしとそう変わらないこの年齢で、
死んだ、ということになる。
本人が至って元気で、おちゃらけているものだから、あたしもつい忘れてしまうのだけど。
死ぬ、というのは、想像以上に辛いものだ。
しかも、雫の話から察するに、「休憩所」の人たちは、生前の記憶をそのまま残してやって来る。
「死」と言うものの辛さ、恐ろしさを心に留めたまま、新しい生活を始める、ということだ。
雫だって、例外じゃない。彼は、あたしと同じくらいの年齢で、死の恐怖に直面してきたはずで。
雫のこの飄々とした表情の裏側には、どんな素顔が隠されているのか。
それを思うと、少しだけ気が重くなった。