実は彼、ユーレイでして。
雫の話は、まだまだ続く。





「往年のユウメイジンが普通に街を歩いてるっていうのも、唯からしたら面白い話かもな」

「あ…そっか。それは確かに…」





素直に面白がるのも、なんだか不謹慎な気もしたワケで。あたしはちょっと口ごもった。





「ま、そうは言っても見た目はいい感じのじいちゃんやばあちゃんだからな。会って特別な気分にはならないけど」

「そりゃそうか。寿命で亡くなったなら、そういう年になっちゃうよね」





夢のような話を、本当になんでもないように語る雫。死後の世界のコトを、この少年は世間話としてあたしに伝える。






不思議な感覚だ。






“あり得ない”と思っていたコトが、“普通だった”という衝撃。






おとぎ話の世界に憧れた、無垢な幼少時代を思い出す。





“あんなコトがあったらなァ…”と、夢に見ながら、子供心に“イヤイヤそんなコトあるワケない”と、一人前に諦めていたファンタジックな世界の存在。





あまりにも唐突に、「実はあるよ」と押し付けられた“平行世界の存在”は、ファンタジーともメルヘンとも、少しばかりズレていて。





オカルト、SFといった、どちらかといえばそういうジャンルに分類される代物だった。





「オカルトって。あまりポジティブなイメージが沸かないんだが」

「ユーレイだよ?普通はオカルトだよね」





「呪いとか、祟りとか、そんなコトするヤツはホントに一握りなのになァ…カナシイよ、俺は」

「文句あるならあんたの説明でジャンルを変えてみなさい」





「どーゆーこった、そりゃ」

「要は、“意味の分からないコト”が起きるからオカルトなのよ。雫がその“意味の分からないコト”に納得いく説明をしたらいいってワケ」





「少なくともSF昇格の目はあるな」

「そーゆーこと」





「俺に言わせりゃジャンルはノンフィクションなんだが」

「あはは、確かに」





他愛のない会話を続けながら、あんパンを食べ終わったあたしたちは、店を出た。
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