ONLOOKER Ⅴ
「あの写真……」
立ち上がって、壁一面を埋め尽くす写真に近付いて行く。
ピアノと寄り添ったり椅子に腰かけたり、他の楽器を持っていたり、どれにせよステージの上で撮られた写真ばかりだ。
きっと、ここでこのピアノや別の楽器を演奏した人たちの写真なのだろう。
その中の一枚、端が黄ばんだ古い写真に、聖は引き寄せられるようにじっと見入っていた。
整った顔立ちの中年男性が、ピアノの前に腰かけて、カメラに向かって微笑んでいる。
切れ長のたれ目が柔和さを醸し、立ち上がっていなくても十分わかる脚の長さだ。
「かっこいい人にょろねー」
「うん……いや、そうなんだけど、なんか」
そう言った時にはもう聖は、ある一つの確信を抱いていた。
なぜかはわからない。
だが、そうとしか思えなかった。
そうとしか思えないほど、明らかだったのだ。
優しげに細められた目が。
薄い唇が。少し癖付いた髪が。
しなやかで長い指が。
「なんか……似てない……?」
「え? 誰……え、」
「ね、そっくりだよね……」
「え、は、あれ? うそ」
「准乃介先輩に」
いつもの微笑みから棘を抜いた准乃介に、そのまま三十歳年を取らせたような男性だった。
あまりにも似すぎている。
写真の隅には、小さくサインがしてあった。
丸っこい文字で、『Seichi Oki』と書かれている。
「オキ、セイイチ……」
「ねえ、准乃介先輩、確か」
「うん、知り合いが」
「ピアニストって……」
そう言ったきり、思わず黙り込んでしまった。
その沈黙で、自分の抱いた疑問が、相手の考えにも浮かんでいる、ということをお互いに確信する。
そして、聖は、ぼそりと言った。
「……ほんとに、ただの知り合い、かな……」