ONLOOKER Ⅴ
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「あっれー……直姫だ」
薄暗い店内から外に出て、眩しさに目を細めてから、聖は言った。
日焼け跡が気になるほどの日差しでもないので、外していたUVカット加工入りの伊達眼鏡を再びかける。
ただの黒縁眼鏡では変装としての意味は全くと言っていいほどないということがわかったので、眼鏡をかけた姿が気づかれてもなんら支障はないだろう。
次からは、もっとちゃんと人目を避けられるものをなにか考えなければならない。
夏生からのメールで店を出た二人を迎えたのは、いて当然の友人と、いるとは思っていなかった後輩だった。
直姫は歩きながら、生意気そうな視線で聖を見返す。
当たり前でしょ、か、見ればわかるでしょ、か、そうですけどそれがなんですか、のどれかだろう。
「行こ。もう表彰式も三十分くらい前に終わったよ」
「表彰式なんてあったにょろ?」
「そう、あったの」
「へえ……。てゆーか、歩きなんだね」
「そりゃ、すぐ近くだし。地図、送ったよね?」
「あ、うん……けど、えーっと、めちゃくちゃに走ったから、途中で現在地がですね」
「……はあ……」
夏生は呆れた表情を浮かべて、まるで苦労人のような溜め息を吐いた。
聖は申し訳なさそうに苦笑いするしかない。
本当は走り回って逃げる前から、夏生に送ってもらった地図は本来の役目を果たしていなかったのだ。
「まあ……それに、車じゃ目立つでしょ。道が狭いから、停められるのかもわかんなかったし」
「うん、でも、歩きでも十分目立ってるにょろよ?」
「それは先輩たちの変装が雑なせいでしょう」
「う……くそう、直姫も有名人になってしまえ。ひじりんとInoちゃんのお友達としてお馴染みになってしまえ」
「意味わかりません」
それなら目立たない車で迎えにくる、という選択肢は、そもそも夏生には存在していない。
生まれてこのかた、日本の公道で圧倒的に有利な、いわゆるコンパクトカーやファミリーカーなどの類いには、もしかしたら触れたこともないのだ。