ONLOOKER Ⅴ


「それで、なんで直ちゃんだったにゃ?」
「ちょっと……めんどくさい人たちが帰ってやっと解放されたので、真琴は思う存分食べてます」
「へ?」


きょとんとする二人に、夏生は特に説明もせずに続けた。


「男子の制服二人と歩いてれば、変な誤解も減るでしょ。紅先輩とか准乃介先輩じゃ逆効果だし」


夏生の言ったように、明らかに学校の友人とわかる二人と歩くことは、確かに意味があった。

アイドルの柏木聖と、歌手のInoが連れ立って歩いている。
そのせいで視線を集めてはいるが、制服姿の夏生と直姫を見ると、皆すぐに目をそらすのだ。

四人が友人関係であることは明白だし、一般人を巻き込んでまで大騒ぎするわけにはいかない、という暗黙のルールのようなものが、きちんと存在するのである。
だったらそのルールを芸能人の日常生活に踏み込まないということにも適用してほしいものだが、自分自身を商品にしている以上はそんなことが言えないのもまた、聖にだって十分わかっていた。


「まあ、そっか、そうだね」
「あ、ねえ、」


よいしょ、と肩のギターケースを担ぎ直した恋宵が、夏生に言う。
今の「准乃介先輩じゃ……」という言葉で思い出したのだろう。
彼女が何を言おうとしているのかは、聖にもすぐにわかった。


「さっきの喫茶店ね、奥に小さいステージがあって、立派なピアノ置いてあるのよー」
「ステージ?」
「ジャズ喫茶なんだって。」
「へー」


夏生からは、全く興味のなさそうな反応が返ってくる。
だが聖や恋宵にしてみれば、そんな彼の態度はいつものことだ。
不器用な子なんですう、とふざけて言えば呆れた表情を返されるような、日常のことである。

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