ONLOOKER Ⅴ

香りと甘さ



生徒会室の扉の外から、重く低い音が、二回聞こえた。
誰かがノッカーを鳴らしているのだ。

部屋にいた全員――三年生以外の五人が、五人ともそちらに顔を向ける。
直姫は真琴とプリントの仕分け作業をしていて、手が離せない。
恋宵は棚の引き出しから物を取り出そうとして、踏み台に上がったところだ。
そのまま、全員の動きが一瞬止まった。

夏生がペンを置いて立ち上がろうとしたが、その前に、聖が扉へ向かう。
やがて重そうな音のあとに、彼の明るい声が聞こえた。


「山崎さん! どしたのー?」


その言葉に素早く反応した恋宵が、棚に向かって手を伸ばしたまま、扉を振り返る。


「え? 乃恵ちゃん?」
「恋宵、落ちるよ」
「うにゃっ」


夏生の警告通り、バランスを崩れて後ろにぐらついて、踏み台から飛び降りる。
そしてそのまま扉のほうへと向かった。


「乃恵ちゃん久しぶりー」
「ふふ、まだ帰りのホームルームから一時間しか経ってませんわ」


山崎乃恵。恋宵と聖、そして夏生のクラスメイトだ。
恋宵の友人であり、ついこの間まではライバルでもあった、元アイドル歌手である。

生徒会室を訪ねた乃恵は、トレーニングウエア姿だった。
長い艶やかな髪を、ポニーテールにしている。
部活動前のランニングの途中だったのだろう。
つい先日芸能界を電撃引退して、キックボクシング部を立ち上げたところなのだ。

そんな彼女は、困ったような戸惑ったような、微妙な表情をしていた。

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