ONLOOKER Ⅴ


浩太郎と名乗った少年は、顔を上げて、近付いて来る直姫を見て、不思議そうに首を傾げた。
そして、ソファーの背もたれに腰を乗せる夏生のほうを見る。
何度かそうして二人の顔を見比べるようにしてから、直姫に向かって言った。


「……オカマ?」


ぶふ、と、堪えきれなかった笑いが、夏生から漏れる。
直姫は眉と口許を引きつらせた。
腕を組んだまま口許を手で覆っている夏生を睨み付ける。
彼は、俯いて肩を揺らしていた。


「あのね、自分はオカマじゃありません」
「そうなの? でも女みたい。あの人も」


今度は直姫が吹き出す番だった。
浩太郎は真剣な顔で、くつくつと笑っていた夏生を指差したのだ。

夏生はうっすらと笑った顔のまま、絶句した。
「は?」という険悪な声が思わず出なかったのは、一種のプロ根性と言えるだろう。
地雷に凍りついたその顔を見て、直姫は仕返しとばかりに肩を揺らして笑う。


「ひ、人を指差すのはだめだよ」


震える声でそう言うと、夏生の視線が突き刺さった。
珍しく、あからさまに眉を寄せている。


「先輩先輩、顔。コワイ」
「どこが? 別に、君で慣れてるからね」


年下からの無礼な態度は、ということだろう。
夏生は浩太郎の見ていないところで、一瞬真顔に戻ってからにこりと微笑んだ。
直姫はいまだ歪んだままの口許を隠しもせずに、彼を横目で見る。

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