ONLOOKER Ⅴ


「そんな笑い方するからじゃないですか」
「まあ、僕はあくまで“みたい”だったけど……直姫は、ね。」


含みのある流し目で返されて、直姫は再び口許を引きつらせた。
目を合わせたまま、口の中で舌打ちをする。


「ちょっ、ちょっと二人とも」


そこへ慌てて二人の間に入ってきたのは、真琴だ。
最近直姫の遠慮がなくなってきたせいで、放っておくと勝手に少しずつ生徒会室の雰囲気を険悪にしていく二人なのだ。
いつも周りがすぐに止めに入るか流すかするのだが、今は最も防御力の高い三年生の二人がいない。


「お客さんの前ですよ!」
「はは、ごめんね、仲が良くて」
「先輩ってばお茶目で、すいません」


浩太郎がきょろきょろと辺りを見回してこちらを見ていないのをいいことに、目だけは全く笑わず睨み合ったままで、二人が言う。

真琴は「もう」と溜め息を吐いて、少年の前にしゃがみ込んだ。
目線を合わせて、あの眉尻の下がった笑顔を浮かべる。


「ごめんなさい、喧嘩してるんじゃないんです」


だが浩太郎は、真琴に向き直って顔を見た途端に、切れ長の目を見開いた。
後退りをはじめるその顔には、明らかに怯えの色が浮かんでいる。
その様子に焦る真琴は、小学生相手にも敬語が崩れないままだ。


「どどどどうしたんですか、あのっ」
「こ、コマツガオカだ……! コマツガオカケンジロウ!」
「え?」


浩太郎が真琴を呼んだ名前は、聞きなれないものだった。
だが真琴は否定することも、不思議そうに聞き返すこともなく、ただ丸い目を瞬かせた。


「知ってるんですか? バブルフォースレジェンド」
「ずっと観てた! お前がいなかったらレオパルドブルーは失明なんかしなくて済んだんだぞ、スクエアデビル団!」
「あ……すいません」
「今さらいい奴ぶったって遅いんだ!」

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