ONLOOKER Ⅴ
「……グリーンだ」
「え?」
「ファジーグリーンだ……!」
さっきまでのどこか生意気そうな強気な表情は鳴りを潜め、小学五年生らしい感激がありありと浮かんでいる。
聖を見るきらきらとした目は、種類は多少違えど、ファンの少女たちが“アイドル”である時の聖に向ける眼差しと似ていた。
彼もまた聖に夢を見ている一人なのだと、直姫は気付く。
「バブルフォースレジェンド、ひじぃのドラマデビュー作にょろよ」
「僕、あの作品で聖先輩とはじめて会ったんです。っていっても、顔合わせ以来、撮影が被ることはなかったんですけど」
なるほど、と直姫が頷く視界の端で、やっとソファーに腰を降ろした浩太郎が、ごそごそとランドセルの中を探っていた。
ガラステーブルにトレイごとグラスを置いた聖が、不思議そうに見ている。
やがてノートと油性ペンを取り出すと、浩太郎は紅潮した顔を聖に向けて、両手を差し出した。
「あのっ、サインください!」
「あ、うん、いいよー」
どこに、え、裏表紙に書いちゃっていいの。
そんな声と、きゅ、とペンのキャップを開ける音を聞きながら、二人の後頭部をぼんやりと眺める。
直姫が聖の芸能人らしい部分を見るのは、これがはじめてなような気がした。
普段は恋宵と一緒に歌っているか、恋宵と一緒にお菓子を食べているか、夏生にツッコミを入れているか、紅に怒られている、ちょっと派手なだけの、ただの学校の先輩なのだ。
こういうテンションのこの人は見慣れない、なんて思っていると、生徒会室の扉がノックもなしに開いた。
ノッカーを鳴らさないのは、生徒会役員の七人と、顧問の居吹だけだ。