ONLOOKER Ⅴ
「あ、遅かったですね」
「すまないな、ちょっと演劇部の部長と。次の発表会、プログラムに変更があるそうだ」
「わかりました。それより、准乃介先輩」
夏生が呼ぶと、准乃介が「ん?」と、紅の頭越しにこちらを向いた。
ソファーの背凭れ越しに、聖の「お名前は?」という声が聞こえる。
来客があることに准乃介が気付いたのと、夏生が准乃介に言ったのとは、ほとんど同時だった。
「弟さんが来てます」
切れ長の目を、彼は丸く見開いた。
「あれ? 弟いるって、言ったことあるっけ」
直姫は首を横に振った。
夏生も、「いえ」と短く言う。
確かに准乃介の家族構成について聞いたことは、一度もなかった。
だが、誰もなにも言わなくても、一目瞭然だったのだ。
直姫の背後で、浩太郎が聖の質問に答える。
「浩太郎です! 沖谷浩太郎」
「浩太郎くんね。ほんと、准乃介先輩そっくりだねえ」
憧れのヒーローアクターを前にきらきらと輝かせた少年の瞳は、切れ長で二重瞼の、たれ目だった。
色素の薄い癖っ毛が、額にかかっている。
高くはないがまっすぐに通った鼻筋と、小さめの顎に、薄い唇のあひる口。
首が長いところも、手足が大きいところも、果ては少し女性的な指の形まで。
迷い込んだ少年は、准乃介に瓜二つだったのだ。
まるで幼い准乃介を見ているみたいだ。
これで血縁関係がなかったら、ドッペルゲンガーなんていう都市伝説を信じるしかない。