ONLOOKER Ⅴ
「浩太郎?」
紅の声に、少年は顔を上げた。
胸にはしっかりと、聖にサインしてもらったノートを抱えている。
振り向いた浩太郎は、紅の姿を見て、満面の笑みを浮かべた。
もし准乃介が無邪気に笑ったら、きっとこんなふうなのだろう。
「紅じゃん!」
「オイ。呼び捨てしないの」
「はは、久しぶりだな」
浩太郎の砕けた口調を、紅は当たり前のように笑い飛ばす。
たしなめた准乃介は、見たことのない、苦い顔をしていた。
「どうしたの?」
「中庭にいたそうですにょろ」
端的に尋ねた准乃介に、恋宵も短く答える。
迷子か、と呟くと、聞き付けた浩太郎が、「違うし!」と声を上げる。
「乃恵ちゃんが連れてきてくれたにゃろー」
「山崎さん? そっか、お礼しとかないとね」
「女子キックボクシング部の勧誘手伝ってあげたらどうスか?」
「俺が? 厳しいでしょー」
苦笑いで言ってから、准乃介は腰を曲げて、弟の顔を覗き込んだ。
膝に手を突いていても、その身長差はまだ頭一つ分ほどある。
体格は兄に似なかったのか、それとも、これから一気に伸びるのだろうか。