ONLOOKER Ⅴ


「で、どしたの?」
「うん、家の鍵忘れた」
「またあ? ヒナに借りらんなかったの」
「ヒナ今日バレエだよ」
「あ、水曜日か……。てっぺーとのんは?」
「お父さんと買い物だから、先に帰っちゃった」
「あぁ、そっか、今日みっきの迎え頼むって父さんに言われてたんだった」


たったこれだけの会話だというのに、あまりに次々と別の名前が出てくるので、彼らは戸惑った。
紅だけが平然とそれを聞いているので、思わず顔を向ける。
視線を一気に浴びた紅は、ぱちりと目を瞬かせてから、「あぁ」と声を上げた。


「准乃介の弟と妹たちだよ。六人兄弟なんだ」
「ろ、六人?」
「もうすぐ七人だよー?」
「七人!?」


おうむ返ししかできないくらいには驚いて、彼らは視線を沖谷兄弟へと戻した。
浩太郎は兄そっくりなたれ目を丸くして、准乃介はにこりと微笑んで、弟の頭に手を置く。


「俺が一番上。次がこれ」
「え……じゃあその下にあと、えと、五人?」
「まだ四人。夏に弟が一人増えるけど」
「あ、おめでとうございます」


頭をふるふると振って大きな手のひらを避けようとする浩太郎を他所に、そんな少し間の抜けた会話をする。
改めて「へええ……六人……」と、誰かが呟いた。

直姫は一人っ子だし、他の役員からも兄弟の話は聞いたことがない。
家族の話をあまりしないので、ただ単に言っていないだけということも考えられるが。
唯一家族のことがよく話題に上る恋宵も、生後数日間はいたという双子の妹の話は、記憶にもないためにあまりできないのだ。
そんな事柄を別にしても、さすがに七人兄弟はなかなかいるものではないだろう。

紅は准乃介の兄弟たちとも顔馴染みのようで、後輩たちの反応を小さく笑いながら言う。

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