ONLOOKER Ⅴ
「なんか手伝いますか?」
「じゃあ、こっちにカップ用意しといてよ」
「わかりました」
休憩室に入って、直姫が棚からカップを取り出したりしている間に、准乃介は湯を沸かしたり、レモンを切ったりしていた。
冷蔵庫にレモンが入っている生徒会室ってなんなんだと、当たり前に並んでいるケーキやゼリーから目を逸らしながら思う。
そもそも生徒会室に休憩室があって、給湯設備が揃っていること自体、少しも普通ではないだろう。
聞いた話によると、ずいぶん前の生徒会長の我が儘らしい。
それまでこの休憩室は、きちんと廊下に繋がった扉が機能する部室だったそうだ。
もちろん、生徒会室と繋がる扉もなかった。
机にカップを三つ並べたところで、准乃介がティーポットとスライスしたレモン、はちみつの瓶の乗ったトレイを持って、出てきた。
カップにはちみつをほんの少しと、レモンを一切れずつ落としてから、紅茶を注ぐ。
「あ、いい香り」
「茶葉の種類も気にしてないけどね。ま、下手なの置いてないし、平気でしょ」
そう言って、准乃介が口許だけで微笑した。
紅茶と柑橘の香りが高く上り、時々甘さが鼻を擽る。
「あ、レモン、すぐ出してね」
「わーい、ありがとうございます」
嬉しそうにカップを受けとる聖は、さっき自分でも言っていたように、相当これを気に入っているのだろう。
直姫はカップに唇で触れたまま、しばらく息を吐き出す。
猫舌なの、と聖が笑った。