ONLOOKER Ⅴ
数分待ってようやく直姫の適温まで冷めたので、ゆっくりとカップを傾けた。
紅茶の少し渋いくらいのコクと、レモンの酸味と、はちみつの甘さ。
それぞれがバラバラのタイミングで舌に届いて、最後にはまとまって消えていく。
直姫は紅茶には詳しくないので種類はわからないが、棚にある中から特に頓着せずに選んだというこの茶葉は、驚くほどレモンと相性がよかった。
「あ、おいしいです」
「やっと飲めたの」
「熱々が美味しいのにー」
「好きで猫舌なわけじゃないんですけど」
そう言うと、カップを手に窓際に立っていた准乃介が、笑い声を上げた。
直姫は、体ごと窓のほうを向いている。
三分の一ほど開けられた窓から吹き込む風が、すっかり夏みたいになっていることに気付いた。
見上げれば、空の色も雲の形も、梅雨前とは全く違う。
特製レモンティーの後味を舌の上に感じながら、直姫は言った。
「准乃介先輩は……」
「うん?」
「ええと、どうして悠綺に入ったんですか」
気付けばそう口にしていて、少し驚いた准乃介の表情に、気付けばすでに後悔していた。
なんでこんなこと言ってるんだろう、と思っても、遅い。