ONLOOKER Ⅴ


レモンティーはもう飲み終わったのか、聖はカップを置いて、急に饒舌になっていた。
彼は人になにか話す時、一から順序立てて説明する癖がある。
恋宵や夏生にはいつも「話す順番が変」「脈絡がなさすぎ」と言われているから、きっと他の人に話す時には、そういうふうに努力しているのだろう。

直姫はそれを黙って聞きながら、次にくる言葉を予想していた。


「ジャズ喫茶クラウド、っていうんですけど」
「ジャズ喫茶?」
「店の奥にステージがあるんすよ。小さいステージなんですけど、グランドピアノとかギターとかサックスとか置いてあって」


准乃介が、へえ、と相槌を打つ。
ちらりと上目で聖を見たが、その視線はすぐにカップの中に戻ってしまった。


「そこの壁にね、写真がたくさん貼ってあったんです。たぶん、ステージで演奏した人の写真を記念に撮ってるんですかね。結構有名な演奏家の写真もあったりして」
「うん」
「その中に、准乃介先輩にそっくりな男の人の写真があったんすよ。ピアノの前に座った、四十手前くらいの」


聖も体ごと准乃介の方へ向けて、片足を揺らしながらつらつらと語っていた。
あまり話すことに集中していないようだ。
と言うより、自分の口から出る言葉よりも、准乃介の反応の方を見ている。


「……オキ セイイチって、もしかして、先輩のお父さんっすか?」

< 35 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop