ONLOOKER Ⅴ


なんでもないような口調と声色で、聖は尋ねた。
平静を装ってはいるが、きっと実はものすごく緊張しているのだろう。
なにしろ、家族の話をほとんどしない准乃介のことだ。
したくなくてあえて避けていたんだとしたら、この話はすぐにでもやめるべきである。
そしてその後を空気を悪くせずに取り繕えるかどうかは、言い出した聖にかかっている。

准乃介は聖をじっと見たあとに、目を逸らして、ふっと笑った。


「そうだよ。よく見つけたね、そんなの」
「や、ほんと偶然で。一番奥の席に座ってなかったら、気付かなかったかもっすね」


聖は視線だけで、安堵の溜め息を吐いた。
直姫はそれを、掠るように眺める。

その映画祭の時の、恋宵と夏生のやり取りといい、なんだかよくわからないことを頭の上で話されている気がするのだ。
それがどうして落ち着かないのか、以前なら特に興味も持たなかったはずだ、ということは、もう気にも留めなくなっていた。

自分は彼らに関心があるのだ、ということを、直姫は自覚しはじめている。
野次馬のようなもの、人間観察の延長などではなく、純粋に、その人間に対しての関心だ。

自覚どころか准乃介や聖にまで気づかれているとは思ってもみなかったが、なぜか少しだけ、自分のそんな変化を残念に感じていた。
そして同時に、自然に受け入れてもいた。

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