ONLOOKER Ⅴ
「プロに教えてもらったなんて羨ましいって、あんまり言われたくないから、かな? 自慢するような腕前でもないしね」
聖の口振りも准乃介の答え方もずいぶん端的で、直姫は脈絡と言葉の端々から、大雑把に推察するしかなかった。
喫茶店の写真に写っていた男性は、准乃介の父親である。
写真には、“オキ セイイチ”という彼のサインも入っていた。
そして、父親のことを話していたと思ったら、唐突に准乃介のピアノの話題にシフト。
准乃介は父親からピアノを習った、ということは、聖にとっては既知のことなのだろう。
それを誰かに話して、「プロに教えてもらえるなんて羨ましい」という言葉が出てくる、ということは。
「……准乃介先輩、お父さんピアニストなんですか」
なんだかやけに間抜けな質問をしてしまったと、口にしてから思った。
二人の会話の速度にあまりに波があるので、ついていくのが少し面倒になってしまったのだ。
准乃介は、目を細めて答える。
「んーん。ピアニストだったの、俺の親父はね。」
それを聞いた直姫は、一瞬、心の底から後悔した。
浩太郎と話す時とは違う口調に、気付いてしまったのだ。
だった、という、過去形。
浩太郎と話していた時の「父さん」と、今言った「親父」との違い。
言うべきではなかったのだ。
聞くべきでは、なかった。