ONLOOKER Ⅴ

放課後無糖


 ***

「直姫、ちょっと」


窓際の机から手招きをする夏生に、直姫はわずかに眉をしかめて見せた。
彼が生徒会室で直姫を呼ぶ時はたいてい、少し面倒な用事を言いつける時なのだ。


「なんですか?」
「南校舎までお使い」
「げ……」
「職員室に行って、藤井先生から原稿受け取ってきて。今西林寺が行きますってメールしたから」
「なんでその原稿をメールで送ってもらわないんですか……」
「そう言うなら、直姫がやり方教えてあげなよ」
「あの機械オンチに説明するのどれだけ大変だと思ってるんですか」
「でしょ?」
「……ですね、はい、すいません」


直姫は溜め息を吐いて言った。
担任教師の藤井は、授業で扱うDVDプレイヤーでさえ満足に扱えないほどの機械オンチなのだ。
そういえば、親睦会の時に彼が用意してくれたのも、箱に名前の書かれた紙を入れておくという、実にアナログなくじだった。

職員室についたらとりあえずまず一言文句を言おうと心に決めて、直姫は生徒会室を出る。

北校舎三階中央にある生徒会室の扉から、東側の階段を降りて、中庭へ出るには、それからまた一階中央にある玄関から出なければいけない。
そして、花壇の間を通り抜けて噴水の横を通って、また花壇の間の小道を行き、そこでやっと南校舎のアーチへ辿り着くのだ。

言葉にすれば大した道のりではないが、この悠綺高校は、それらの大きさや距離がいちいち規格外だ。
大きすぎる校舎から出るだけでも五分はゆうに越えるし、中庭を横切るのにもまた十分近くかかる。
北校舎から南校舎へ行って帰ってくるだけで、往復三十分もかかるのが、悠綺高校なのだ。

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