ONLOOKER Ⅴ
『ねえ、あれ、あの金髪の人』
『え? 柏木……』
『だよね? 聖くんだよね、KNIGHTの……』
ごく小さな囁き声だったはずだ。
聖にはまったく聞こえなかった。
だが恋宵の耳は、それを正確に拾っていた。
恋宵は振り返らずに、小さく「ひじぃ、バレちった」と呟いた。
「え、うそ」
「こっち来るにょろ」
恋宵の聴力の高さは、聖もよく知っている。
彼女が言うのだから、間違いないのだろう。
これだけ人通りが疎らなら平気だろうと思っていたのだが、その考えは楽観的すぎたらしい。
その数少ない数人の通行人が、聖の目を引く服装と、髪の毛に気付いてしまったようだった。
「どうしよ、しゃくる?」
「それねえ、効果ないにょろよ」
「あ、やったことあるんだ」
「それより電話してるふりとかのがいい……けろ」
「けど、ねえ……」
一人で歩いている時ならば、電話中だと遠慮して声をかけてきたりはしないだろう。
だが二人でいる時に二人ともが電話を耳に当てているなんて、不自然にもほどがある。
どうしよっか、とわりと呑気に話しているその間にも、恋宵の耳はまた別の方向から音を拾っていた。