ONLOOKER Ⅴ
「浩太郎くん、お兄さんっ子?」
「ち、ちげーよ!」
返ってきた答えがあまりに予想通りで、紅が彼の後ろで、声を出さずに小さく笑った。
准乃介が最近忙しい、と呟いた時に彼が浮かべたのは、どう見ても、淋しげな表情だったのだ。
だがもうすぐ十一歳になる少年らしく、浩太郎は胸を張って見せる。
「准兄なんかな、すぐ追い越してやるんだからな。見下ろしてやる」
「それはすごい……何メートルになる気?」
「二メートル以上なきゃだめだ」
「あぁ……はは、」
直姫が乾いた声で相槌を打ちながら紅を見ると、口を覆って、肩を揺らしていた。
目が三日月型に笑っている。
この辺にしておいてくれないと、今に彼女が笑い泣きすることになりそうだ。
紅がまた、浩太郎の肩にぽん、と手を乗せた。
声がまだ少しだけ震えているような気もする。
「頼もしいな。ちゃんと日南子と協力して、下の子たちの面倒も見なくてはな」
「そんくらいな、ヨユーだし!」
見慣れた造形が見慣れない無邪気さで動くので、なんだか違和感を禁じ得ない。
逆に、紅にとってはそれが微笑ましくて仕方ないらしい。
これもある意味のろけなのか、なんて思っていると、浩太郎がふと俯いた。
「でも、」と声を出す。
「でも……テレビとかの仕事、忙しいのに、悠綺なんか入っちゃったから」
「え、」
柔らかそうに癖づいた髪を、見下ろす。
思いもしない言葉が出てきて、どう反応を返していいのか、そもそも反応を返していいのかどうかも、迷った。