ONLOOKER Ⅴ


「受験の時なんか、いっつも夜中まで勉強してたし」


少し戸惑って、紅の顔を見る。
准乃介が誰かに心配されている様子なんて、あまりに慣れない状況だったのだ。

紅は眉尻を下げて、頷いた。
それは一体、どういう意味の頷きだったのか。
直姫に見つめられたまま、紅が口を開く。


「勉強と仕事の両立は、確かに大変だろうな」
「今は違うよ? あんまり……そこまでじゃないけど」
「……准乃介に、どうして悠綺に入ったのか聞いたことがあるんだ」


浩太郎が、顔を上げた。
紅を見上げる。
紅は目を伏せて、続けた。


「入ってからが楽だから、だそうだ。ちょうど受験の頃に、人気が出はじめていたこともあって」
「マスコミとファン対策ですか? でも、楽っていってもそんなに……」


のんびりとした校風ではあるが、曲がりなりにも名門高校だ。
当然、入ってしまえばあとは勉強はしなくてもいい、なんていうわけにはいかない。
受験の時ほど張り切る必要はないかもしれないが、当時と比べて大幅に成績が落ちたりしては、替え玉受験や裏口入学を疑われてしまう。

それに、入ってからのほうが楽だからといって、少し頑張ればなんとかなるような入学試験ではない。
直姫は確かに、受験当時よりはずいぶん余裕があると感じているが、それは特待試験を受けるために、尋常ではない猛勉強に慣れた者だけの感覚だろう。


「そうだな……そんな考えで特待試験を受けた受験生なんて、他にいないだろうな」
「え?」


直姫は、目を丸くして紅を見た。
あまりにも思ってもみない言葉が、含まれていたのだ。

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