ONLOOKER Ⅴ
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直姫は、生徒会室へ向かっていた。
近頃、時間が合わないのか、定期発表会の準備が立て込んでいるせいか、生徒会室へ行っても、全員が揃っていることはあまりない。
春の余裕はなんだったのかと思うくらいだ。
西校舎から北校舎へ向かうだけでも、じわりと汗ばんでくる陽気だ。
そろそろ夏だな。
そんなことを思って、直姫は、嫌いだったはずの夏を、今年はそれほど嫌だと思っていないことに気付いた。
校舎に入れば、完璧な空調管理のおかげで、汗はすうっと引いていく。
エコだなんだと騒ぎ立てている昨今では有り得ないことなのかもしれないが、悠綺高校では、なによりも生徒が快適に過ごすことを第一に優先しているのだ。
階段を、息が切れない程度に駆け上がっても、汗がぶり返すことはない。
生徒会室に着いたら温かいレモンティーが飲みたい、と思った。
准乃介に作り方を教えてもらおうか。
今、いるだろうか。
生徒会室の扉を開くと、准乃介は、いた。
准乃介しかいなかった、というほうが正しい。
扉を開けて体を挟んだままの体勢で、直姫は一瞬、動きを止めた。
准乃介が顔を上げてこちらを見たので、体を滑り込ませる。
「みんなは」
「出てるよー。夏生と聖はまだ」
「この時期に遅刻とかさすがですね……」
「今、入るのちょっと躊躇ったでしょ。」
「……いえ、まさか」
片方の眉毛をきっ、と上げて、直姫は答えた。
図星だった、ということは、准乃介の口許に浮かんだ笑みを見る限り、気付かれているだろう。
この人の察しの良さ、嫌だ、と、直姫は心の中で呟く。
夏生は洞察力で様々なことを見抜くが、彼の場合は、本当に勘で判断しているような気がするのだ。