ONLOOKER Ⅴ
レモンティーの作り方は、聞く雰囲気ではなくなっていた。
喉は渇いていたので、冷蔵庫に入っていたアイスコーヒーをグラスに淹れる。
休憩室に入る前にちらりと窺った准乃介のグラスの中身は、透き通った赤茶色だった。
紅茶が好きなのだろうか。
詳しくないと言っていたが、よく飲んでいるように思える。
グラスとコースターを持って席に着いて、ノートパソコンを開く。
麻糸を編んだコースターには、タグが付いていなかった。
誰かの手作りなのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながら、キーボードを指で撫でる。
やけに気分が散らかっている、と思った。
なにも考えずに声を出す。
「准乃介先輩って……」
「ん? なぁに」
「特待生だったんですね。知りませんでした」
「あぁ、そう。成り行きでね」
「成り行き?」
おうむ返しに聞き返すと、「勧められるまま受けたら、受かっちゃったんだよ。すごい大変だった」と苦笑する。
「確かに、あれは大変ですよね……」
「入る時頑張れば後が楽だと思ったのに、全然なんだよねえ。俺は直姫や真琴みたいな頭してないから、ついていくの大変だよー」
そうは言うが、彼は学年五位以内から順位を落としたことはなかったはずだ。
それでもなぜか、その言い方が嫌味に聞こえないのは、浩太郎の心配そうな顔を見たからだろうか。
「浩太郎くんが、仕事と勉強で忙しそうって、心配してましたよ」
「えぇ、ほんとに? かわいいとこあるじゃん」
「朝仕事してから学校来るんですね。大変そー」
「忙しいのなんか今だけだよ。すぐに過去の人になっちゃうから」
言っていることは卑屈な気がするが、その顔は柔らかく微笑んでいる。
直姫が、浩太郎の話をしたからだろうか。
普段生意気な弟が、実は心配してくれているというのは、嬉しいことなのだろう。
ずいぶんリラックスしていた。
直姫も、准乃介もだ。
直姫は、口を噤む。
気を抜きすぎると、うっかり言わなくていいことまで口走ってしまいそうだった。