ONLOOKER Ⅴ
「てゆうか、勉強より金持ち感覚についてくほうが大変だよー。俺、庶民派だからね」
「はあ……紅先輩なんかズレまくりでしょう」
直姫が言うと、准乃介は「あは、そうだね」と笑った。
彼の笑い方は、どこか伏し目がちだ。
「だいたい、学食にフレンチって、意味わかんないでしょー」
「それは同感です」
「直姫もなんかそんなかんじだねえ」
「庶民派ですか? 一応お嬢様、なんですけど」
「百歩譲ってお坊っちゃんらしくもないよ」
「まじですか」
そうだろうな、とは思っていたが、いざ言われると、それもどうなのだろうと思えてくる。
父親は元政治家だし、母親の家だって明治から続く外交官の家系なのだから、それなりに由緒正しいといえるはずである。
あまりに上品すぎて女であることがバレても困るのだし、これでいいのだろうか。
直姫が首を捻っていると、准乃介が目を伏せたまま、口を開いた。
「あの後、恋宵にも言われたよ?」
「え、なんですか?」
「俺のピアノ聴きたいって。なぁに、流行ってんの?」
「さあ……なんでしょう」
恋宵の真剣な顔を思い出した。
映画祭の日、聖と恋宵を迎えに行った時のことである。
夏生に、准乃介のことをなにか知っているのか、と言った時、あまり見たことのないような顔をしていたのだ。
先日の聖も、恐る恐る手を差し出しているようなところがあった。
どうして、踏み込もうとしているのだろうか。