ONLOOKER Ⅴ
行くひと
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控えめな声量で名前を呼ばれて、振り返った真琴は、目を丸くした。
「大友さん。どうしたの?」
いつも凛とはりのある声を上げているイメージのある大友麗華が、そんなふうに小声で話しかけてきたことに、少し驚いたのだ。
それに、元来男子生徒と積極的に接点を持つほうでもないため、直姫の隣にいない真琴に声をかけてきたことも、意外だった。
麗華は聞かれたくない話でもするように、言う。
「あの、この間、映研部の依頼で撮らせていただいた映画のことで、お話が」
「あぁ、あの……」
一月ほど前、映画研究部から依頼を受けて協力した、生徒会役員総出演の自主制作映画のことだ。
同じく自主制作の映画作品を持ち寄って完成度を競う映画祭への参加作で、悠綺高校のその映画は見事最優秀賞を受賞した。
悠綺高校のプロモーションになるからという名目で依頼を受けたものの、内容は殺人の起きた校舎内に生徒が閉じ込められるというサスペンスで、正直いってあまり宣伝になっていない気がしてならない。
要は単純に、完成度のためにプロの役者を使いたかったということなのだろう。
その自主制作映画において脚本を担当したのが、映研部所属の麗華だった。
とはいえ、真琴たちは後々まで彼女が関わっていたことを知らなかったのだが。
結果発表の時の麗華の笑顔を思い出して、真琴はなんとも言えない気持ちで苦笑いを浮かべた。