ONLOOKER Ⅴ
「やっぱりお忙しいんですの? 佐野くん」
「まぁ……ちょっとね」
「ほら、英語のスピーチコンクール、うちのクラスからは真琴が出ることに決まったでしょ」
「そうでしたわね……練習は順調?」
ことりと首を傾げた麗華に、真琴は苦笑いを返した。
運悪く仕事が重なってしまったせいで、正直なところ、練習どころか原稿の最終確認も終わっていないくらいだ。
そういった意図を汲み取ったのか、麗華は頬に手のひらを添えた。
「そうね、お仕事もしてらっしゃるんですもの、当然ですわよね……」
「演技の話聞きたいなら、他にもいっぱいいるじゃん。聖先輩とか准乃介先輩とかでも」
「ちょ、ちょっと直姫……、」
友人のぞんざいな物言いに慌てた真琴の眉尻が、どんどん下がっていく。
同時に麗華の表情も、みるみるうちに曇っていった。
「もちろん、他にもお声はかけさせていただきましたわ。けど」
「どうかしたの?」
「先方が、どうしても佐野くんにとおっしゃっていて」
「え?」
真琴が困って直姫を見ると、怪訝な表情を隠しもせずに、眉を潜めていた。
真琴のほうを向くと、小さく首を傾げる。
「どうして僕に……? 芸歴も長くないし、映画にもたくさん出たわけじゃないし」
「佐野くんのファンなのではなくて?」
「だからってそんな……真琴の都合もあるし、仕方ないでしょ」
「十分でも五分でもいいから呼んでくれないかと、頼み込まれてしまって。一応お断りはしたんですけれど、試しに声だけかけてみてくれないか、とのことなんです」
麗華の困り果てた顔は、映研部の代表として真琴に話をつけに来たというよりも、単純にちょっとした愚痴を溢したいクラスメイトの姿になっていた。
実際には先方に無理を言われたのは部長なのだろうし、麗華の役目はただのメッセンジャーだ。
直姫は眉を少し上げて、真琴を見た。
口許には苦笑いが浮かんでいる。