ONLOOKER Ⅴ


後ろの方で、悲鳴のような歓声のような、よくわからない奇声が上がった。

例の女子高生集団のようだ。
聖は小さく舌打ちをする。

その声で気付いた周囲の通行人が、走り出した二人に目を留め、その目立つ容姿の正体に気付くのは、ごく自然な流れだった。


「恋宵ちゃん、ギター」
「え、え、あ」


肩に背負っていたギターケースのベルトを受けとる。
走りながら腕から抜くのを手伝って、そのまま自分のトートバッグと一緒に肩に担いだ。

バランスを崩した恋宵の腕を、反対の手で掴む。


とにかく入り組んだ道へ。
とにかく人のいないところへ。

目に入った角を反射的に曲がっていく。
悲しいかな、聖にとって逃走なんて慣れたものなのだ。

恋宵のほうはそうでもないようで、息を切らしながら、聖に手を引かれてなんとかついて来ている、という感じだった。

もともとそれほど運動が得意なほうでもない。
聖一人ならば簡単に撒ける人数と距離だが、なかなか視線から逃れることが敵わない。

今は、狭く路地の多い町並みに、ずいぶん助けられていた。


何度目の角か、小さなドラッグストアに沿って曲がった時だった。

石畳の歩道はあるがやはり細い道の向かいに、下へと続く階段が見えた。
地上に見えている二階は雑貨屋のようだが、蔦の這う一階部分は半地下のようになっていて、中は薄暗いが何かの店らしい。
階段の脇に看板が出ている。

聖は考える前に、その階段へと飛び込んだ。

座り込めばとりあえず身を隠せそうだが、咄嗟に下まで降りて、木の扉の向こうに滑り込む。

窓から外を窺うと、直後に沢山の足が走りすぎて行くのが見えた。
どうやら、間一髪、うまく撒けたようだ。


「はあ……危なかったあ……」


一息吐いて、聖は暗い方へ視線を移す。

当面の危機は脱したようだが、今外に出るなんて無謀なことはできない。
夏生に連絡して迎えを頼んで、来てもらうまでは時間を潰しているしかないだろう。

そう思って、店内を見渡したのだが。

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