ONLOOKER Ⅴ
「けど、有川さんが話聞かせてくれるっていうから、抜け出して来た」
「光村、カメラマンなんだ?」
「うん……テクニック磨く前に、体力つけなきゃだめかもな」
「有川先輩は陸上部とかけもちなんだよ。砲丸投げ」
「うわーギャップゼロ」
なんでもない話が、少しだけ盛り上がる。
そんなことがやけに嬉しくて、真琴は落ち着かなかった気分が、わずかに癒されるのを感じた。
小学校五年生で光村が転校してしまってから、もう会いたくないな、と漠然と思っていたのだ。
一度は友達になったのに真琴をいじめる側についた彼を、裏切ったと思っていた時期も少しだけあったし、その頃は、ずっとこの傷を抱えたままなのかもしれないと、暗く予感していた。
だが結局は、恨まずに済んだ。
恨まずに済んでいたと気付いたのは、映画祭で再会した時のことだ。
ぎこちなくはあったし、気まずい思いもあったが、光村との久しぶりの会話を、確かに嬉しく思ったのだ。
相変わらず恐る恐る近寄るような固さはあったが、二人は穏やかに話をしていた。
だが、階段の前という、落ち着きにくい場所だ。
近況報告をするには時間も距離感もいまいち足りなくて、会話が途切れがちになっていく。
そこへ通りかかったのは、パステルイエローの人影だった。