ONLOOKER Ⅴ
「あれ、真琴? 今日生徒会ないよ?」
「あ、僕はちょっと先生探してて……聖先輩こそ、どうして北校舎に?」
「んー、俺ね」
苦笑いのようなしかめっ面のような、微妙な表情を浮かべながら、聖は光村と同じように、二階から階段を降りて来た。
前髪に、ちょこんとロリポップキャンディが乗っている。
同じヘアピン、恋宵先輩もしてなかったっけ、と真琴が思っていると、聖の色白の指が、その辺りの額を撫でた。
「真琴と同じクラスの、大友化粧品のご令嬢に、映研部のお手伝い頼まれて。他校の生徒が来るから演技指導してくれないかってさ」
「え、聖先輩も?」
「いちおあの時の映画に出てたからってことでね。今日ヒマだったし、ちょっと話するくらいならいーかと思ったんだけど」
そうだとしたら、少し妙だった。
映研部の部室があるのは二階で、当然機材もすべて二階に置いてある。
機材見学が建前にしても、見学に来た名桜館の生徒たちは、二階にいるはずだろう。
現に光村も、階段を降りて来たのだ。
それなのに聖は今、彼らのいる二階から降りてきた。
まだ授業が終わってそれほど経っていないのに、早々に役目を終えてしまったのだろうか。
そうじゃなかったら、わざわざ上まで行ったにもかかわらず面倒になってやめたか、もしくは、さっさと追い出されてしまったかのどちらかだ。
聖の、なんとも言えない表情も気になった。
真琴の不思議そうな顔に気づいて、聖が苦笑して見せる。
「なんか、俺の話はあんまり聞きたくないみたいだったから。他の子役出身の人とか、演劇部の人に任せて、帰っちゃおうかなって」